2022-05-03 投稿者: Sporkes編集部 0

『強いだけのチームにしたくない』自転車保有率1位のさいたま市で活動する自転車ロードレースチームの挑戦

地域密着型を掲げ、さいたま市を拠点に活動する自転車ロードレースチーム「さいたまディレーブ」。地域密着型の9チームが中心となって参加する自転車ロードレースの新リーグ「ジャパンサイクルリーグ(JCL)」に所属している。2019年に発足したばかりの若いチームだ。昨今多様なスポーツチームが掲げる「地域密着」。さいたまディレーブがどのような取り組みをしているのか。鈴木卓史監督、藤田涼平選手、桂慶浩選手に聞いた。

さいたまディレーブのコンセプトは?

>鈴木監督
もともと埼玉県って自転車保有率が日本一で、自転車が一般市民含めて馴染みがある県。その中でプロチームとしてやろうと立ち上がりました。地域密着の地域貢献活動、レース活動の2本柱で、走るだけのプロチームじゃない。プロチームはいろいろな方々からスポンサーをもらいながらじゃないと運営できない。自転車で地域を応援する、そうするとファンが増える、それで企業が喜ぶという循環型でやっていきたいです。地域に愛してもらうのが大前提。強いだけのプロチームにしたくない。あくまでも地域に愛されて応援されるチームになりたい。

具体的な地域貢献活動として、さいたま市の教育委員会と連携協定を結び、市内11校で自転車安全教室を開催している。

>鈴木監督
地域の方の補助輪外し教室や、さいたまスポーツコミッション様から委託を受けて実施したり。地域貢献って意味ではかなり形になりつつあるかなと思います。ただ現状は「さいたまディレーブ知っている人?」と聞くと、3000人に1人いればいい方。学校に1人いるかどうか。中学校で全員に自転車教室をやると、3000人、10校やると3万人。100校やったら30万人。そうやって僕らの活動の認知を広げていきたい。

桂選手は前所属のヴィクトワール広島も地域密着を掲げるチームだったという。その取り組みの重要性は強く認識している。

>桂選手
4年過ごしたヴィクトワール広島も最初は全然知名度がなかった。4年かけて積み重ねて何回か自転車安全教室を開催して、最終的にはクラスの半分以上が知ってくれている状況にまでなった。さいたまディレーブも地道に積み重ねていけば知名度も上がるし、それに伴って強くなっていく。競技は最優先ですが、レース以外の活動も並行して取り組んでいくことが重要かなと思います。

地元出身の藤田選手はチームでも積極的に貢献活動に取り組む選手の1人だ。

>藤田選手
地元にさいたまディレーブができた時から一員として活動していて、チームとともに成長できているのはうれしい。徐々に声をかけられたり、手を振ってくれたりする人が多くなってきた。続けていけば地域に根強くなる手応えはあります。頑張っていきたいです。

さいたまディレーブのチームの強みはどんなところなのか。

>鈴木監督
端的に、まとまりがあるチーム。現状すごく強いチームではないし絶対的なエースはいないけれど、バランスが取れている。

>桂選手
間違いなくJCLの中で実力は下位。でもコミュニケーションがとれていて、いい意味で和気藹々としている。強いチームはバチバチで、コミュニケーションが上手く取れていないチームもあります。

>藤田選手
埼玉県は自転車ファンも多いし環境も悪くない。チームの伸び代はある。チームと一緒に、僕個人も成長していきたいです。

3人それぞれにチームと自身の関係を聞いた。

>鈴木監督
サイクリストではありましたが、レース経験は一切ないです。ホビーレースはあるけど、プロの立ち位置になったことはない。やりたいことが見つからなくて、じゃあ好きなことを仕事にしようと自転車屋さんの門を叩いて、そこからずるずると。自分のやりたいことをもっとやるためにはやるしかないと独立して、監督に至るまでの経緯は色々あるんですけど、縁があってここに座っています。お店も経営しながら監督もしています。

>藤田選手
僕の場合は、父親(晃三)が選手で(バルセロナ)オリンピックにいっていて、小学生くらいからロードバイクに乗り、中学一年くらいの時にレースに出場したんです。その時は運動も得意じゃなくて背も低く、レース結果も最下位くらいで、「なんだこれつまんねえな」って。父親もそれを見て、あまり強制的にはやらせない感じでした。

その後、高校を卒業して何かやりたいことがあるかを考えた時に、自転車業界で働こうと。どちらかといえばメンテナンス、メカニック的なところでスキルアップしようと思って専門学校に進学しました。そこで友達とレース活動を始めて、どうせなら若いうちにできるところまでやってみたいという思いが生まれました。レース活動を20歳からはじめて、約5年が経ちました。埼玉は地元なので、さいたまディレーブができた時からここで活動しています。

>桂選手
小学校からマウンテンバイクに乗っていましたが、昔は調理師になるのが夢でした。専門学校にいって調理師免許を取ったのですが、その学校の担任の先生にサイクリングに誘われて、自分も自転車をやっていたのでその流れで競技をやる話になって。先生にそそのかされました(笑)。

そこから自転車部を1人で立ち上げて、高校2年生で、1人で自転車をやりはじめた。先生が自転車大好きで、巻き込まれた形ですね。やり始めると一個のことしか集中できない性格なので、自転車を始めてからは調理はそこそこで。高校生の時に自転車でインターハイまで行って、それだったら選手で頑張ろうと自転車一本に絞りました。

海外で競技をやっていて、帰ってきてヴィクトワール広島に入った。もう一回海外でUCIというカテゴリーのレースに出たいと思っていて、もう一段階ギアを上げるために広島のチームから環境変えてみて挑戦したいなって思い、さいたまディレーブに移籍しました。今でも、ご飯を作るのは嫌いじゃないです(笑)。

ロードレースの魅力について、両選手はそれぞれこう語る。

>藤田選手
長距離競技なのでマラソンみたいに思われがちですけど、勝つ選手が毎回違っていてギャンブル性がある。自分の得意なコースだったら、いきなりポンといい順位が取れるんじゃないかと、選手としてもワクワク感があります。

>桂選手
外から見ているとあまりわからないですが、走っている選手はいろんな戦術や展開のなかで勝敗を争っていて、弱い選手にもチャンスがある部分が魅力。ある意味では誰でも勝つことができる競技で、出場チームみんなにチャンスがあってみんな面白い。

両選手はどのように日々、挑戦と追求を繰り返しているのだろうか。

>藤田選手
走りの個性は正直、まだ見いだせていないです。だから去年、自分に貢献できることを探して自転車教室をがんばりました。地域貢献のエースとして、個性をだそうというところで。競技面では、自転車は踏む出力がデータで出て限界値が数値でわかるので、その壁をどう超えていこうかと模索している。今年から新しく付けたコーチと連携して、どこまでパフォーマンスをあげられるか挑戦していきたい。

>桂選手
年齢的に残された時間は限られていると思っていて、何としても飛び級しないといけないという焦りもあります。練習から、しっかり自分なりの目標を持って、高いレベルで取り組み続けるのが今年チャレンジしているところ。もともと海外で走っていたので、新型コロナウイルスの状況が落ち着いたら海外のレースに出たい。国内のレースでも海外の選手が参加するUCLレースなど、そういったステージを目標にしていきたいです。

PLOFILE

藤田涼平 -ふじたりょうへい-

1997年3月13日、埼玉県上尾市生まれ。2018年にJBCFタイムトライアルチャンピオンシップE1 優勝し、2019年に東京ヴェントスでJプロツアーデビュー。2020年からさいたまディレーブで活動。2021年 全日本選手権 51位。170㌢、60㌔、血液型A。

桂慶浩 -かつらよしひろ- 

1995年11月7日、福岡県宮若市生まれ。大和青藍高等学校自転車競技部卒業後 Ve’lo Club Saulce’en Elbeuf les Thuits(フランス ノルマンディー)所属、海外レースを走る。2017年から2021年までヴィクトワール広島に所属し2022年よりさいたまディレーブで活動。2021年 広島トヨタ広島クリテリウム 8位。173㌢、63㌔。血液型:A型

鈴木卓史 -すずきたかし-

1973年9月26日 長野県生まれ。2021年よりさいたまディレーブ監督を務める。埼玉県内にスポーツバイクファクトリーを2店舗(北浦和店、草加店)展開するプロショップを経営。